豪奢な玉座に腰を落ち着けたまま、彼は居並ぶ臣下たちをにらみつけた。

尋常でなく鋭い彼の瞳でにらみつけられると、たいていの者はふるえあがって意見を変える。
しかし、今日彼の前に集まった人々はふるえあがりこそすれ、意見を変えようとはしなかった。



そのことも彼が不機嫌である理由のひとつだが、もうひとつの原因に比べればごくささやかなことでしかない。


「では、お前たちはあくまでも運命を我に押し付けるというのだな」
「・・・これも煌(きら)の御ため。どうぞご理解を・・・・・・」


怒りをはらんだ彼――――煌の声はどこまでも低い。
対して答えた臣下の一人はかろうじて声を出すことに成功したという風情で、恐れのために声がひどく震えていた。



「俺のためか・・・。よくもそんなことが言える」


床に這いつくばる臣たちには聞こえないように呟く。


そんな甘い言葉に惑わされるほど自分は幼くない。
自分の存在が国への贄であることなど、とうの昔に理解していた。



「・・・煌?」

不意に黙り込んだ彼に、臣の一人が探るような視線を向けてくる。
我を取り戻した彼が口を開くよりも一瞬早く、一人の男が駆け込んできた。
煌自身が見知っていたわけではないが、その者の素性はすぐに知れた。

紫の法衣に濃紺の帽子。
光と闇を示す二種類の宝玉をはめ込んだ杖を持つことができるのは、ごく限られた者たちだけだ。



「女神の召喚に成功いたしました!」

室内が静まり返ったのはほんのわずかな時間。

「よくやったぞ、召喚士よ!」
「これでわが国も安泰だ!」


代わりに室内に満ちたのは割れんばかりの歓声。
その中央にあって煌はため息をついた。





運命の扉は開かれてしまったのだ。










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