「鈴音ちゃん、今度お城に遊びに来ない?」

「いいの!?」
「もちろん。昴もきっとあなたに会ったら嬉しいと思うし」



町で希望を見つけてきたと言ったら昴はどんな反応をするだろう。
めったなことでは驚きを映さない金色の瞳を大きく見開くかもしれない。
それとも、煌としては絶対に見せない幸せそうな顔で微笑んでくれるかもしれない。




「あっ!」
「どうしたの?」
「今何時!?」




気がつけば、あたりは夕焼けの赤い色に染められている。
未音の黒い髪も鈴音の桃色の髪も、今はどちらも同じ赤にしか見えないほどだ。




「え? ええっと・・・」
「昴の会議って夕方には終わるのよね!? やばい!」


城を出るときの詠軌の言葉がはっきりと耳によみがえる。






『ただし、昴の会議が終わるまでには帰ってきていただきます』





あたりは夕暮れ。
遊んでいた子供たちは家に帰り、母親が食事の支度を終える頃だ。




それはつまり、昴の会議も終わっている確立が高いということになる。



「やばい! 昴に怒られる!」
「お姉ちゃん、怒られちゃうの? 鈴音が一緒に謝ってあげようか?」
「怒られるっていうか・・・・・・え?」


パニックを起こしかけていた未音を幼い声が現実へと引き戻す。
まじまじと鈴音を見つめると、きょとんとした無邪気な表情が飛び込んできた。




「今、お姉ちゃんって・・・?」
「だって燐さまじゃないんでしょ?」


自分で言っておきながら、燐以外の名で呼ばれることに驚いた。
詠軌でさえも時折、燐と呼びかけるときがある。




だが、この少女はためらうことなく燐という呼び名を捨てたのだ。



「未音でいいよ、鈴音ちゃん」
「未音ちゃん?」
「うん」


鈴音に視線を合わせるためにしゃがみなおして、にっこりと微笑む。
たとえ昴に怒られようと、外出禁止令を出されるはめになろうと、町に出てきてよかったと心からそう思った。





初めは絶望しか見えないように思えた町で、こんなにもかわいらしい希望を見つけることができたのだから。





「さてと、行こうか。家まで送ってってあげる」
「いいの? 早く帰らないと怒られるんでしょ?」


気遣ってくれる鈴音の言葉が嬉しくて、こんな小さな子に心配をかける自分が少し情けない。



「どうせ遅くなっちゃうなら一緒。それに最近いろいろ危ないって・・・」
「未音ちゃん!!」


未音の言葉をさえぎって鈴音が叫ぶ。
未音の背後を映すその瞳に浮かぶのは紛れもない恐怖の色で、未音はとっさに後ろを振り向こうとした。
鈴音がいったい何に恐怖しているのかを確かめるために。




がつんという鈍い音がした。





それが自分の頭から発せられたものだと気づくと同時に、未音の瞳は後ろに立つ人影を捉えていた。
不吉なまでに赤い夕焼けに照らされる、三人ほどの男たち。
見知った顔は当然ない。




(誰・・・)



「未音ちゃ・・・っ!」


叫んでいる鈴音の声がやけに遠くに聞こえる。
鈍い音がもう一度聞こえた気がしたかと思うと、鈴音の声が不自然なところで途切れた。




(鈴音・・・ちゃん・・・・・・)



助けなければと思った。自分よりもはるかに小さな体で恐怖にずっと耐えていた、心優しい少女を。
だが、焦る思いとは裏腹に未音の全身からは力が抜けていく。
視界が徐々に暗くなり、視界を埋め尽くす赤も不審な男たちも見えなくなる。




(昴・・・)





最後に鮮やかな金色の光がよぎって、未音の意識は暗転した。




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プチ・あとがき



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