(あれから十二年・・・。我ながらよくやったな)



十二年間、楽しいことなど何一つなかった。
いやおうなく継がされた玉座に、過剰な期待を寄せる国民。
気の休まるときなどなく、煌としてかぶった仮面は年々厚くなっていく。



それでも、彼は煌を演じ続けた。


綺羅国に平和と繁栄をもたらすという煌の名に恥じることなく、内政を引き締め、外交を保つ。
隣国との関係は常に綱渡りのような状況ではあるが、今のところは大きな波風を立てることもなくわたりきっている。

彼としては最大の努力をしたつもりだ。
煌としての仮面をかぶり、平和と繁栄をこの国にもたらしたつもりでいた。



(これ以上を俺に望むのか・・・)
深い溜息をつくと、掌に浮かんでいた光が消えた。
代わりに部屋を支配する漆黒の闇に、召喚された女神の姿が重なる。



光の神の隣に常に描かれている闇の女神、燐。
煌とともにこの国に平和と繁栄をもたらすという彼女のことを意識したことはなかった。

たとえ彼女がいなかったとしても、彼は彼なりにこの国に平和と繁栄をもたらすことができたのだから。
事実、国民は彼の統治に満足しているように見えた。
ならば女神など必要ない。ずっと、そう信じて疑わなかった。



しかし、隣国からの風向きが少し変わると、彼らの態度は一変した。


隣国が武器の開発を進め、軍備を蓄えているとのうわさが流れたのだ。
あくまでもうわさだが、隣国との関係は常に綱渡りの状態にある。
うまくすると渡りきれるかもしれないが、少しでも誤ると奈落の底へと落ちていくしかない。



彼がひそかに戦を覚悟したころ、重臣たちは別のことを決心していた。


つまり、女神の召喚を。
彼らは女神さえ召喚できれば、この国の未来は安泰だと信じている。




ふざけるなと、大声で怒鳴ってやりたくなった。




今までの平和は彼が必死になって政治を行った結果だ。
決して、彼が煌だからではない。



だが、この国の人々にとっては煌と燐こそが平和の代名詞になっていた。
煌と燐がそろえば、そこには必ず平和があるものと盲目的に信じているのだ。

平和の裏にある彼の努力などを見るものは誰もいない。




(俺は・・・)
神が暮らす室内に、苦悩に満ちたうめき声が響いた。





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プチ・あとがき





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