何日も前から天気予報で警告はしていたが、まさかここまで的中するとは思っても見なかった。








「嘘でしょ……」


朝起きて恐る恐る外をのぞけば、見慣れた景色が一面の白に染まっていた。
しんしんと降る雪はやむ気配などなく、普段なら外にいる子どもたちの歓声も聞こえない。
車でさえも寒そうに走っているように見えるのは、窓辺に立つだけで外の刺すような寒さが伝わってくるからだろうか。



いつもの未音であればこんな日に外に出ようなどとは思わない。
ましてや今日は補講期間に当たっていて授業もないし、試験前ということもあってバイトも入れていないのだ。
雪が降ったのが昨日や明日であれば、家で暖房に当たりながらレポートでも書いていればよかった。




だが、今日だけはそうもいかない。
カレンダーには今日の日付のところに赤い丸がついていた。



「今日は半月の日なのに」


今日は未音が待ち焦がれた月に一度だけの日。
大好きな人が未音のところに来てくれる大切な日なのだ。




「コンビニでカイロ買っていこうかな」



小さく呟きながらコートを着込み、マフラーを巻く。
タンスの奥から普段は使わない手袋まで引っ張り出して、シルエットだけを見ればまるで雪だるまのようになってしまった。

それでも、会いに行かないという選択肢は存在しない。
忙しい彼が今日来るのかどうかは行ってみないとわからないが、もし会えるとしたら――――




「一秒でも長く一緒にいたいもんね」


世界を超えた遠距離恋愛は楽ではない。
そんな風に考えたらなんだかおかしくて、鍵を手に取った未音からは笑いが漏れていた。










待ち合わせ場所――――厳密に言えば向こうの世界に一番近い場所――――未音の学校の近くにあった。
初めて昴がこの世界を訪れたときに未音がいた、小さな公園。
特別なものは何もないこの場所がどうして向こうの世界とつながっているのかはわからない。



(私がいたからとか言うんだもんなぁ)


初めて昴がこの世界に来たときに未音がいたのがここだった。
だから昴はここに現れ、それ以来この場所が向こうの世界とつながったのだというのが彼の主張だ。
未音に引かれるようにして世界を超えたからと言われるのは嬉しいが、それと同じくらい恥ずかしい。



そもそも昴は意識せずに漏らす言葉が、聞いていて恥ずかしくなるくらいに甘い。
無意識で言っているということはそれが本心だということの証でもあり、嬉しい反面恥ずかしさで何もいえなくなってしまうのが常だ。
気の利いたことを返せたらと思うのに、言葉が何も出てこなくなってしまう。






友達に相談したら、のろけるな、とはたかれてしまったが。





(雪か……。向こうに雪って降るのかな?)


綺羅国と雪はどうもイメージ的に結びつかない。
未音が召喚されていたときも、天気が崩れることすらめったになかったのだ。
こんな風に雪が降ることなどないかもしれない。



(なら……)


ふと思い立ってきれいな雪を集め始める。
小さく丸めて形を作って、雪が積もって座れないベンチの上にちんまりとしたサイズの雪だるまを作った。

昴が見たらなんと言うだろう。
きっと雪を見たことなどないであろう彼は、ベンチの上に並ぶ雪だるまを見て笑ってくれるだろうか。



背後から声をかけられたのはその時だった。



「未音?」


振り返る必要などないほどに、耳にしっかりとなじんだ声。
二つ目に取り掛かっていた雪だるまを急いで完成させて、背後に立つ大切な人のほうを振り向いた。



「昴! 久しぶり!」
「あ、ああ……」


白く染まった公園を不思議そうに見渡す彼は、やはり雪を見たことはなかったようだ。
自分の予想が当たったことが嬉しくて、いたずらっ子のように笑ってしまった。



「雪だよ、昴」
「ゆき?」
「そう。今日は寒かったから、雨の代わりに雪が降ったの。きれいでしょ?」


どこか誇らしげにそう言ったが、視線の先の昴はどこか困ったような表情をしている。
その表情のまま何かを確かめるように周囲を見回して、きょとんとする未音をいきなり抱きしめた。



「昴!?」


まるで初めてこの世界で出会ったときのようだ。
優しく、壊れ物でも扱うように抱きしめられて幸せで胸がいっぱいになる。



「体が冷え切っている」
「え?」
「寒かっただろう? 俺が未音を待たせたから……」


苦しそうな声でささやかれて、そのとき初めて自分の体がかすかに震えていることに気がついた。
あんなに寒さ対策をしたつもりだったのに、やはり完全には寒さを防げなかったようだ。




だが、今の今までそんなことには気がつかなかった。



「ごめん、未音」
「……あのね、昴。私そんなに寒くなかったみたいなんだよね」


昴を待つ時間は楽しくて、あっという間に過ぎていった。
彼が喜ぶ顔を思い描きながら雪だるまを作るのもとても楽しかったのだ。
本当に寒さなんて忘れてしまうほどに。



「だからね、昴は気にしなくていいんだよ?」
「未音……」


抱きしめられる両腕に力が増す。
耳元でささやかれた名前は小さくかすれていて、どこか熱っぽさも含んでいた。



「未音は素でそういうことを言うから困る」
「え? そういうことって?」
「気づいてないならいいさ」


優しく微笑まれたが、その微笑には苦笑が混ざっている。
複雑な笑みを見せる昴に若干の引っ掛かりを感じたが、唇に触れたぬくもりに全てがどうでもよくなってしまった。










久しぶりの更新に加えて久しぶりのこの二人です。
七夕以来だから……半年ぶりくらい?
どうにも久しぶりすぎて二人の会話の感覚がつかめません。



朝起きたら外が真っ白で、それを見た瞬間 「なんか書こう!」 って(笑)
それで必死になって雪を見ながら想像を膨らませて、できたのが雪の中昴を待ってる未音でした。
本当は昴を怒らせようと思ったんですよ。
「なんでこんな寒い中待ってるんだ!?」 見たいな感じで。


でも、世界を超えた遠距離恋愛をしてる二人は想像以上にラブラブバカップルでした(爆)


二人とも相手が言う甘い台詞には反応できるんですけど、自分が言ってる甘い台詞には無自覚です。
詠軌とか蒲英がいたら突っ込んでくれるんですけど、あいにくこの二人を見てるのは雪だるまだけですからねぇ。
誰も突っ込んでくれませんでした(笑)


突込みがいないまんま続いた会話が以下に。
うーん、久しぶりだと糖度が増すのかなぁ??














「かわいいでしょ? 雪だるま」
「ゆき、だるま?」
「雪で作っただるまだから雪だるま。雪が降ったら必ず作るんだ」
「確かにかわいいとは思うが、未音には負けるな」
「……っ」
「未音? 顔が赤いが、やっぱり風邪を引いたんじゃないのか?」
「なんでもない!」






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