1年に1度だけ、引き裂かれた恋人たちが会うことができる星の夜。






街のいたるところに設置された笹に、子供たちが楽しそうに願い事を吊している。
小さい頃は未音もよくやったし、実は去年もこっそりと短冊を笹に紛れこませた。



昴に会えますように、と書いた短冊は今年はもう必要ない。



「あれは何をしているんだ?」


隣を歩く青年が不思議そうに問いかける。
きらめく金髪と同じ色の瞳。
さながら外国からの留学生といった風情だが、少し違う。




彼――――昴は次元を超えた別の世界から来ているのだ。



「あれはね、七夕っていう……お祭りかな?」
「祭り?」
「ええっとね……」



目的地につくまではまだしばらくかかる。
それに、昴の質問にはなるべく答えてあげたいとも思う。
彼が未音の世界のことを理解しようとしてくれていることがよくわかるから。



「織り姫と彦星っていう恋人たちがね、天の川っていう川の両岸にいるの。
普段は会えない2人なんだけど、七夕、7月7日にだけはかささぎって鳥が橋を作ってくれるから会うことができるの」



話しながら自分のあやふやな知識が嫌になった。
今度昴に会う時までにはもっとちゃんと調べておこう。

密かに決意を固めた未音には気づかない様子で、昴は小さく笑った。



「俺たちみたいだな」
「えっ?」
「俺たちを隔てているのは川じゃないし、会えるのも1年に1度ではないが……。
いつも一緒にいられるわけではないというところが、よく似ている……」



自然と下がる声のトーンに、未音は何も言えなかった。
自分たちにとっての天の川は世界そのもの。
橋の役目をするのはかささぎではなく気まぐれに満ちる月だ。



満月の日には自分が昴を訪ねるが、次の新月までこちらに戻ってくることはできない。
ましてや昴がこちらに来ることができるのは、半月の1日だけだ。




世界に隔てられた恋人たち。
確かに自分と昴によく似ているかもしれない。




「そっか……だからか……」
「未音?」
「なんで織り姫と彦星は1年に一度だけ会って、そのあとにまた川の両端に戻るのかって」


それは小さな頃から未音がずっと感じていた疑問だった。
七夕の日に会うことができたら、そのあとはもう別れなければいい。
せっかく大好きな人に会えたのに、1日で別れる理由がわからなかった。






だが、彼らが自分たちと同じだとすれば―――





「きっと織り姫には織り姫の生活が、彦星には彦星の生活があるんだよね」


それぞれに築き上げた生活があるとしたら、それを棄てることなど簡単にはできない。
たとえその人への想いがかけがえのないものだったとしても。
想いと生活はそもそも同じ秤にかけられるものではないのだ。



そこで見つけた最善の策が、1年に一度だけの逢瀬。
つまり、そういうことなのだろう。




「やはり、俺たちのようだな……」
「そう……かもね」



どちらともなくうつむいて、ただもくもくと歩き続ける。
二人が歩いているうちに日は沈み、空には星が浮かび始めた。




織り姫と彦星が出会う頃には、自分たちは別れなければならない。
次に会うのは1ヶ月後。1年待った織り姫たちに比べるとずいぶん短いが、会えないことがつらいことには変わりない。




「そろそろだな」
「だね」



こんな話をしたあとでも、昴はあくまで自分の帰るべき場所を忘れない。
同じように未音も次の満月にあちらに行く気はない。
次の満月にあちらに行けば、大学の試験を受けることができなくなってしまうから。
未音は篠宮未音としての生活を棄てられない。






――――今はまだ





「あのさ、昴」
「うん?」
「織り姫がずっと彦星の所にいたいって言ったら……どう思うかな」



言いながら頬が紅潮していくのがわかった。
昴の瞳に真っ赤な自分が映って余計に恥ずかしくて、悪循環を断ち切るべく顔を伏せる。

一拍間が空いて、いたたまれなくなって前言を撤回しようとすると、不意にあごに手をかけられた。
何も言わずに唇をふさがれ、夢見心地で瞳を閉じる。



息が苦しくなるほどに長くて甘い口づけが、昴の答えを伝えていた。






今はまだ学生だから、篠宮未音として生きていく。
だが卒業したら――――












「異世界にお嫁にいくって言ったらみんなびっくりするだろうなぁ」



行きと違う1人での帰り道。
そう遠くはない未来を思って笑う未音の上で、2つの星が柔らかく光っていた。



















初の番外編は七夕編になりました。
いかがでしたでしょうか??


若干七夕に間に合ってないのはご愛嬌です(苦笑)



そういえば明日は七夕だなぁって思いながらシャワーを浴びてるときに完成したネタです。
それを今日出かけたときに携帯を使ってちまちまと打って、帰ってきてからあわてて更新しようとしてます。


久しぶりに未音と昴を書いたんでなんか変な感じです。
キャラが変わってないかがすごく不安……。
でも、書いててすごく楽しかったですvv


本当は詠軌と沙羅の話を書いてるんですよ。
何ですけど、そっちが書き終わる前にこっちが書きあがってしまいました。
うん、やっぱり勢いって大事ですねぇ。


だめだ、まとまらない……(爆)





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